弾き語りの練習をしていると、どうしても歌っている所ばかり練習してしまいます。
ところが聴いている側が「うまいな」と感じるのは、たいてい逆の場所です。歌が止まっている数拍。そこでピアノが何をしているかで、同じコードを弾いていても曲の印象がまるで変わります。
Golden Slumbers は、その差がとてもよく出る曲です。テンポが遅く、メロディが長く伸びる。つまり余白が多い。今回はこの曲を題材に、余白の埋め方を整理してみます。
「合わせる」とは、縦を揃えることではない
歌とピアノが合わない、と相談を受けたとき、多くの方はタイミングを正確に揃えようとしています。歌の頭とコードの頭をぴったり合わせる、という発想です。
でも弾き語りで実際に効くのは、その逆の考え方です。
同時に動くと、どちらも聴こえなくなります。
二人で会話をしているのと同じです。相手が喋っている最中にこちらも喋れば、どちらの話も伝わりません。伴奏を「合わせる」というのは、どちらかが譲ることだと考えると一気に楽になります。
余白の埋め方は3段階ある
歌が止まった所でピアノができることは、大きく3つです。強さの順に並べます。
| 段階 | やること | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 1. 止まる | 何も足さない。鳴らしたコードをそのまま響かせておく | メロディが長く伸びている最中。歌詞を聴かせたい所 |
| 2. 低音だけ動かす | 左手のベースを、次のコードに向けて一歩だけ歩かせる | 短い息継ぎ。前に進む感じが欲しい所 |
| 3. 歌の続きを弾く | 歌が止まった所から、右手が数音だけメロディを引き継ぐ | フレーズとフレーズの間。曲が展開する手前 |
多くの方は、いきなり3をやろうとします。 そして全部の隙間で3をやってしまい、結果としてピアノが歌と喧嘩します。
順番は 1 → 2 → 3 です。まず何もしないを弾けるようになる。次にベースだけ。3は、曲の中で2〜3回で十分効きます。
Golden Slumbers が良い教材になる理由
この曲は、静かな子守唄のような始まりから、後半にかけて大きく盛り上がっていく構成を持っています。
つまり同じ曲の中に、1が正解の場所と、3が正解の場所の両方があるということです。前半で3をやってしまうと後半に上げる余地がなくなり、逆に後半まで1のままだと曲が持ち上がりません。
原曲の雰囲気を大切にしたい、という時にやるべきことは、装飾を増やすことではなく、どこで足してどこで引くかを決めることです。
なぜこれが効くのか
理由は単純で、人の耳は一度にひとつのメロディしか追えないからです。
歌が伸びている裏でピアノが細かく動くと、耳は無意識にピアノを追いかけ始め、歌詞が入ってこなくなります。逆に歌が止まった瞬間に耳は行き先を失うので、そこにピアノの動きを置くと、聴き手の意識を切らさずに次のフレーズまで運べます。
伴奏が上手い人は、難しいことを弾いているのではなく、この受け渡しの場所を知っているだけです。
練習の進め方
- まず歌だけで通して歌い、息継ぎの場所に印をつける。ここが余白です
- 次にピアノだけで、余白では何も足さずに通す(段階1)
- 印をつけた場所のうち、短い隙間だけでベースを一歩動かす(段階2)
- 曲の中で2〜3か所だけ選び、歌の続きを右手で弾く(段階3)
- 歌と合わせて通し、歌詞が聴き取りにくくなった所を探して、そこを1つ前の段階に戻す
5番目が一番大事です。 足す練習より、足しすぎた所を引く練習のほうが、弾き語りは早く良くなります。
「伴奏の上達は、弾ける音が増えることではなく、弾かない場所を選べるようになることです。」
こんな方に見てほしい
- 歌とピアノがどうしても噛み合わない方
- 伴奏が単調になってしまう方
- ビートルズの曲を弾き語りしたい方
- 原曲の雰囲気を壊さずに弾きたい方
- 弾きすぎて歌が埋もれてしまう方
この動画で学べること
- Golden Slumbers のコードと伴奏の組み立て方
- 美しいメロディーを生かす伴奏の作り方
- 歌とピアノを自然に合わせるポイント
- 原曲の雰囲気を大切にした弾き語りのアプローチ
ピアノ弾き語り教室では、あなたが歌いたい曲そのものを題材に、どこで足してどこで引くかをマンツーマンで一緒に決めていきます。